KP_9528.jpg

【図説つき】ランニング前後にオススメのストレッチは? 中野ジェームズ修一さんが解説するストレッチが必要な理由

ランニングを始める前、どのようなウォームアップを行いますか? また、ランニング後にどのようなクールダウンを行うでしょうか? 何となく前屈や開脚運動をしている人も多いかもしれません。ランニング前後の体の状態と、それぞれに適したウォームアップやクールダウンについて、adidas契約アドバイザーの中野ジェームズ修一さんに伺いました。

走る前に必要なのは、心臓・筋肉・関節のウォームアップ

  • ランニング前は、どのような準備運動を行うべきでしょうか?

  • 中野ジェームズ修一さん(以下、中野)

    ランニングに限らず、運動する前は、心臓と筋肉と関節の3つをウォームアップする必要があります。順番に説明しますね。

    まずは心臓ですが、走るためには、体内の血液量を増やさなければなりません。ウォーキングから始めて、少しずつスピードを上げていき、心拍数が落ち着くまで走れば、心臓のウォームアップは完了です。

    次に筋肉ですが、筋温(筋肉の温度)が低いと、筋肉の粘性が高くなります。粘性が高いというのは、筋肉を動かしにくい状態。筋温を上げて粘性を低下させるには、動的ストレッチが有効です。

    動的ストレッチとは、関節を繰り返し動かして筋肉を温め、関節可動域を広げるストレッチのこと。
    運動前に心拍数や血流を増加させることで、運動パフォーマンスの向上やケガの防止につながります。ランニングの前は、肩や股関節を回したり、脚を交互に持ち上げたりするなどの動的ストレッチが有効です。軽いジョギングでも肩や脚を動かすことになるので、それでも構いません。

    最後に関節です。プラモデルを作るとき、関節にオイルを差さなければ、スムーズに動きませんよね。人間の体も同じで、関節を動かすには、オイルのような役割を果たす「滑液」が必要です。成長期の子どもは滑液が潤沢で、さほどウォームアップをしなくてもすぐに関節を動かせますが、年齢を重ねると、滑液が出にくくなる。滑液は、関節を動かすことで産生されるので、動的ストレッチを行い関節の滑りを良くしていきます。

  • KP_9488.jpg
  • 今までは、準備運動として、前屈や肩まわりを伸ばすストレッチを行っていました。

  • 中野

    体を伸ばすようなストレッチを静的ストレッチといいますが、日本では準備運動に静的ストレッチをする人が非常に多い。小中学校の体育教育がその原因だと思いますが、準備運動で静的ストレッチを一生懸命行うのは、先進国では日本くらいです。

    トップランナーはもちろん、20km、30kmを走るような中上級者も、ランニング前のウォームアップには、ぜひ動的ストレッチを取り入れていただきたいです。ただし、初心者ランナーの場合は、動的ストレッチを入念に行わなくても構いません。動的ストレッチに10分費やすなら、その時間を使って走る体力をつけてほしいですね。

    とはいえ、いきなり走り始めると心臓が追い付かないので、ウォームアップの代わりにウォーキングを行ってください。「あそこの信号までウォーキングで行こう」「その次の信号までジョギングで行こう」「走るスピードを上げよう」と、段階を踏んでウォーキングからランニングに移れば、十分なウォームアップになります。ウォーキングをして体を動かすと、筋温が上がりますし、滑液が出て関節の滑りも良くなります。

静的ストレッチでランニング後の疲労回復を早める

  • ランニング後はどのようなストレッチを行えばいいですか?

  • 中野

    ランニング後は、体を伸ばす静的ストレッチを行ってください。運動直後の筋肉は、収縮と伸張を繰り返します。それが終わると、筋肉は縮んでいきますが、収縮にエネルギーを使われると、体に疲れが残ってしまいます。

    要するに、車のアイドリングと同じこと。ブレーキをかけたのに、エンジンがかかりっぱなしだと、ガソリンがどんどん使われてしまいます。筋肉を伸張させることで、エンジンを早く止めて、体を休ませることができるんです。

  • どのくらいの時間を目安に行えばいいでしょうか?

  • 中野

    アスリートのように全身をくまなくストレッチしようと思うと、30分から1時間程度はかかります。でも、社会人ランナーの方は早朝や帰宅後にランニングをして、それだけの時間をかけて静的ストレッチを行うのは、現実的ではありませんよね。

    最低限、足底(足の裏)・すね・ふくらはぎの3点は、ストレッチしてほしいと思います。足底のストレッチから順にお教えしましょう。

  • KP_9626.jpg
  • 中野

    正座をした状態から足首を曲げます。足の指を床につけ、かかとの上にお尻を載せて体重をかけてください。そのまま30秒間キープ。足底筋群だけでなく、足指裏のストレッチにもなります。

  • 中野

    なるべく体重をかけたほうがいいのでしょうか?

  • 中野

    体が硬い方は、体重をかけ過ぎるとつらいので、気持ちいいと感じるところでストップしてください。両足同時に行うのが難しければ、片足ずつでも構いません。足底筋群だけでなく、足指裏のストレッチにもなります。

  • KP_9633.jpg
  • 中野

    続いて、すねのストレッチ。正座をした状態から、右手で右脚の膝をつかんで持ち上げます。左手は床について、バランスを取ります。そのまま30秒キープして、逆側の脚に交代します。

  • KP_9635.jpg
  • 中野

    膝の下に重ねたタオルやクッションなどを敷けば、両足のすねをいっぺんに伸ばせます。

  • 中野

    最後にふくらはぎのストレッチですが、ふくらはぎの筋肉には、腓腹筋とヒラメ筋の2種類があります。どちらも伸ばすために、2つのポーズを行います。

  • KP_9637.jpg
  • 中野

    まずは腓腹筋のストレッチから。左脚を後ろに引き、右腿に両手をついて、前傾姿勢を取ります。そのまま30秒キープして、逆側の脚に交代しましょう。

  • KP_9640.jpg
  • 中野

    続いて、ヒラメ筋のストレッチ。両脚を軽く前後に開き、膝を曲げます。そのまま30秒キープして、逆側の脚に交代します。

  • 静的ストレッチをすることで、どのような効果が得られますか?

  • 中野

    筋肉を伸張させることで、自律神経が交感神経優位から副交感神経優位に切り替わりやすくなります。つまり、体がリラックスした状態になり、質の良い睡眠を得やすくなるんです。また、副交感神経優位になれば、疲労の回復が早くなります。

    「たくさん走ったのに、翌朝は体がすっきりしている」という経験をすれば、また走ろうという気持ちになりますよね。モチベーションを継続するためにも、ランニング後は、必ず静的ストレッチを行ってください。

ケガ予防にもつながるランニング前後のストレッチ

体の準備が整わないままランニングを始めたり、疲労を残したままランニングを終えたりすると、ケガのリスクが高まります。この記事を参考に、ランニング前のウォームアップ、ランニング後のストレッチをしっかり行い、万全な状態でランニングライフを楽しみましょう。

取材対象者プロフィール:
中野ジェームズ修一さん
スポーツモチベーション最高技術責任者
米国スポーツ医学会認定運動生理学士
PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー

フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍を続けている。自身が技術責任者を務める東京神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB 100」は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」が評価され活況を呈している。

(取材&執筆:東谷好依 撮影:藤原慶 編集:ノオト)

会員登録すると
10%OFFクーポンプレゼント
iconCross