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長時間ランニングにはメンタルトレーニングが重要? 中野ジェームズ修一さんにその理由を聞いた

ランニング中上級者の中には「長時間ペースを保って走れるように、スタミナをアップしたい」と考える方もいるかと思います。そのような悩みに対して「長時間走れないのは、スタミナ不足が原因ではないかもしれません」と話すのは、adidas契約アドバイザーの中野ジェームズ修一さん。長時間走るために必要なトレーニングや心構えについて、中野さんに伺いました。

長時間走れない=スタミナ不足ではない

  • 中上級者のランナーの中には、スタミナ不足に悩む方も多くいらっしゃるようです。

  • 中野ジェームズ修一さん(以下、中野)

    途中で息切れをして「スタミナがない」と感じるランナーは多いと思いますが、スタミナ不足と、長時間走れないことを混同するのはNGです。

    地球上にいる生物の中で、これだけ長く体を動かし続けられるのは、人間しかいません。ヒョウやライオンも、3時間走り続けることはできないんです。人間の体は、長時間走れる筋肉の構造になっているし、エネルギーの供給システムが備わっている。それって、すごいことですよね。

    つまり人間である以上、長時間走ることが可能なはず。ただし、長時間走るには、そのための練習が必要になってきます。スタミナがないと感じるのは、長時間走に適した練習ができていないからです。LSD(Long Slow Distance:ロング・スロー・ディスタンス)※をベースに、少しずつ距離を増やしていくことで、長時間走れるようになっていきます。

※ LSD(Long Slow Distance:ロング・スロー・ディスタンス)…ゆっくりとしたペースで、長い距離を走ること

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  • 後半にスタミナ切れを起こしてしまい、目標タイムを切れない場合、どのような練習が必要でしょうか?

  • 中野

    練習が足りないというより、スピードを落とす勇気が必要ですね。後半にスピードが落ちてしまう方は、スタミナが不足しているわけではなく、スタート時の設定スピードが速すぎるんです。自分の体に合わないスピードでランニングに入るから、後半が保たなくなる。設定スピードを落とせば、最後までペースを保ったまま走れるので、結果的に自己ベストを更新できる場合もあります。

  • 先頭集団についていこうとして、後半にペースが落ちて順位が下がってしまうのは、自分の体に合わないスピードで走り始めるからなんですね。

  • 中野

    そういうことです。自分のペースで走れば、もっと順位が上がるかもしれません。

メンタルが要因でスタミナ切れを起こすことも

  • 自分の体に適したスピードは、どうすれば知ることができますか?

  • 中野

    ハーフマラソンやフルマラソンに挑戦するランナーは、自身の「運動強度」と「カルボーネン法」と呼ばれる計算式を覚えておくといいですね。

    運動強度を知るには、まず最大心拍数を知りましょう。最大心拍数の目安は、次の式で求められます。

<最大心拍数>
220-年齢=最大心拍数

  • 中野

    つまり、35歳の方の場合、185程度が最大心拍数となります。次に、目指す運動レベルに応じた運動強度の設定。最大心拍数を100%とすると、運動を長時間継続し脂肪燃焼させるゾーンは60~70%、心肺機能を強化しスピードを高めるゾーンは70~85%です。自分が行う運動に応じた数値をカルボーネン法の計算式に当てはめます。

<カルボーネン法>
目標心拍数=(最大心拍数-安静時心拍数)×運動強度+安静時心拍数

  • 中野

    あくまでも目安ですが、この計算式を利用することで、運動中の目標心拍数を出すことができます。自分が設定したスピードで走っていて、最初の10km地点の心拍数が目標心拍数の80%を超えていたら、もうそのスピードでハーフマラソンを走り切ることは不可能です。目標心拍数の70%程度でハーフマラソンを走れると、そのスピードでフルマラソンも走れます。

  • 中野

    「適切な練習ができていない」「設定スピードが速すぎる」といった理由以外に、長時間走れない要因はありますか?

  • 中野

    途中で苦しくなり走れなくなってしまうのは、実はメンタルが要因であることも多いんです。例えば、10kmをゴールとした場合、8kmに差しかかった頃に苦しくなってきますよね。我慢して10km走り切った後に「同じ道を走って戻れ」と言われても、もう走れません。

    ところが、ハーフマラソンを走るつもりでゴールを設定すれば、20kmの距離を走れるんですよ。つまり、フィジカル的に走れないのではなく、脳でコントロールして、体の動きをストップしてしまっているんです。

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  • 中野

    同じように、フルマラソンの42.195kmを走り切ってゴールした後に「ここからフルとハーフをもう1本ずつ走ってください」と言われても、絶対に走れません。でも、100kmのウルトラマラソンを走り切ろうと思えば、フルマラソン2本とハーフマラソン1本の距離を走れてしまうんです。

    それは、フィジカルが強いわけではなく、脳が「100kmをゴール地点」と認識しているから。長時間走るには、こういった脳のしくみを利用して、20km、30km、40km……と、長い距離を走る成功体験を積むことも大切です。

長時間走るカギはスピード調整と成功体験

中野さんのお話から、フィジカルとメンタルのどちらも、長時間走れない要因になることがわかりました。いくらスタミナがあっても、長距離を走り切った経験がなければ、脳が体の動きをストップして、途中からペースがガクッと落ちることも……。自分に適したスピードを知り、走る時間と距離を少しずつ延ばして、成功体験を重ねていきましょう。

取材対象者プロフィール:
中野ジェームズ修一さん
スポーツモチベーション最高技術責任者
米国スポーツ医学会認定運動生理学士
PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー

フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍を続けている。自身が技術責任者を務める東京神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設「CLUB 100」は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」が評価され活況を呈している。

(取材&執筆:東谷好依 撮影:藤原慶 編集:ノオト)

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