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ランナー福士加代子が本音で語ったレースとシューズ、私だけのゴールのこと。

これまで数多くの世界大会を経験してきたランナーの福士選手は9月15日に、運命の一戦となるレースに出場する。大事なレースを控えた彼女に、「レースへの向かい方」「シューズとの付き合い方」「ゴールの見据え方」という3つのキーワードで話を聞いた。ランナー福士加代子を紐解くインタビューをお届けする。

2019年1月に行われた某レースの一幕を思い出してほしい。先頭集団を走る福士選手は、12km付近で転倒。顔面、両膝から流血し、その後、30km過ぎ地点で自身初となる途中棄権を判断した。

「あの転倒は強い衝撃だったので、立ち上がって走ったときに一回肩の力がストンとぬけたんです。その後の5kmぐらいですかね、むしろいい走りができました。それで自覚できたんです。私、ガチガチに緊張していたんだって(笑)」

そのレースとは、4年に一度の世界大会を翌年に控え、日本代表を決める国内最終選考レースへとつながる大切なレースのひとつだった。

「このレースに向かう1、2カ月間は、栄養不足と脱水状態で、何をやっても身体が受け付けてくれませんでした。カツカツの心で、身体は常に緊張感をもっていて。そんな状態では結果は望めないんです。あの転倒から私は、もっと日々の生活を穏やかに過ごそうって思えたんです」

このメンタルの切り替えが功を奏したのか、福士選手は転倒の怪我から約1カ月半後に復帰。3月のレースで日本人2位の結果を残し、9月15日に開催される日本代表の最終選考レースへと足を進めることとなった。

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転んで手に入れた。穏やかにレースに挑む心持ち。

「そもそも、転んでいい発見があったんです。いくぞ、必ずでるぞ。そういうガツガツした気持ちを手放すことにした。日々のトレーニングメニューの詰め方も変えて、自分にできる部分をみて、できないことに特化する時間を捨てることにしました。年齢と共に身体も変わってきているのは事実で、そんな中で昔の自分に合わせて無理をしてトレーニングしても、またズレていくだけなんです。過去の栄光も、積み上げてきたノウハウも一回捨てて、自分が焦らない過ごし方を考えて、徹底するようにしたんですよ」

「焦って何か得することある? なにもないよ」と福士選手は続ける。

「もちろん、日々トレーニングに取り組む中でやってる感ってほしいんです。もっとやらなきゃ、もっとやらなきゃって普通は思うんです。でもやった感にこだわると、もうつながっていかないんです。最初は手を抜いているようで、葛藤がありましたね。でも今は、できることを積み重ねていく、それで本番で発揮できればいいんだなって思えるようになりましたね」

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シューズに身を委ねる。今日の自分の状態を受け入れるために。

ランニングシューズを履く行為は、今日の自分の状態を察知するツールでもあると福士選手は話す。

「どんなに無造作に履いても、何も考えなくても、つい身体が反応してしまうものなんです」

シューズに足を入れた途端に感じ取れるのは、どんなことなのか。足先の感覚? それとも全体的なフィット感?

「全体ですね。adizeroの特徴でもある、踵のフィット感や指の収まり方がどう馴染んでいるか。それに対して、今日の自分がどう反応しているか。自分の状態に抗うのはよくないんです。そこで小細工しようとすると無駄な力が入ってダメなんですね。もうね、そのままでいい。良い靴だからシューズに頼ったらいいんです。今日の状態を受け入れて、シューズに頼れた方が速く走れるから」

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福士選手いわく、己の状態を自覚してしまう“シューズを履く”という行為。それならば、大事な一戦の当日や本調子でないレースの日となると、履く行為そのものに恐怖を感じてしまうこともあるのではないか。

「むしろ、今日の状態は早く知れた方がいい。崩れているなら崩れたなりの走りがあるので。2時間のマラソンには、必ず波がある。辛いときでも“この状態でこれだけ動けたらええやん”そう思えると意外とぬけるんですよ、何分後かには。結果的、どんな状態でも今日の自分を受け入れた方が速く走れるんです」

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重力から解き放たれた走りを目指して

ランナー福士加代子の「走るモチベーション」は、ここ数年一貫している。それは「楽に走ること」だ。

「頑張って走っているというより、重力から解き放たれて、無重力状態にいるみたいに軽やかで美しい走りを目指しているんです」

過去には「地球と喧嘩しているみたいに、ドタドタ苦しそうに走りたくない」と表現したこともあった。

ゴールはどこにある? 金メダルがすべてではない。

「ランナーとして、陸上競技としてのゴールは、勝つことだけじゃないと思っています。ゴールと達成がイコールではないので。きっと金メダルをとれば、一時は達成感を得られると思うんですね。でも、それを達成したいからやるのかというと、違う。そこで達成できたらもう辞められるのかというと、また走ってしまう。きっと、自分のゴールがどこにあるのか探し続けることでしか、ゴールには近づけないのかなって最近は思いますね」

福士選手は日々葛藤しながらも、それを少し楽しみながら走り続けている。

福士選手が着用しているアディゼロシリーズを見る

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福士加代子選手
1982年3月25日、青森県生まれ。五所川原工業高等学校卒業。ワコール女子陸上競技部。3000mと5000mの日本記録保持者。ハーフマラソンの自己記録は1時間7分26秒、アジア・日本記録保持者でもある。マラソンの自己記録は2時間22分17秒。

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